<第1話>

 記憶が確かならあれは昭和60年、ある日の事
(日本がバブル経済へ突入する起点になったプラザ合意のあった年・また阪神タイガースが21年振りに優勝した年でもある)

 その日は大げさに言えば「ほんの少し人生を寄り道して行け!」とポンッと誰かに背中を押されたような不思議な体験をした一日でした
そうです僕がこの業界に本格的に足を踏み外した(いや踏み入れるきっかけになった記念すべき日)
その後の人生ですが大きく寄り道を余儀なくされました(今もそれたままやんけ)

 石川町・横浜スタジアム近くの古びたビルで行われていたある即売イベント「おもちゃの蚤の市・ワンダーランドマーケット」という
なんともノスタルジーなタイトルの催し〜これが僕のトーイショウデビューなんです、

 会場に潜入してからまだわずか30分というのに僕の頭の中はすっかり混乱しあっちをウロウロ、こっちをウロウロまるで動物園の白クマ状態
それもそのはず数年前から興味を募らせていたアンティークな玩具への想い・・「鉄人28号」や「ゴジラ」のおもちゃや「ミニカー」なんかがたくさん並んでいる
しかもこのせまっ苦しい所にけっこうな人の数〜
なんやこれ超合金か、さすがに僕は超合金では遊んだ記憶ないけど面白いやん、でもやっぱり買うんやったらソフトビニールの怪獣がええかなぁ
こっちのブリキの鉄人はえらい迫力やなぁ!なんぼくらいするんやろ? ゲッ12万付いてるわ、アホちゃうか?
なんでこんな高いんや、おかしいんちゃうか?付いてる値段にだんだん腹が立ってくる! せやけど凄いなウーン?気になる、気になんねん〜

 当時僕は大阪の若者の街アメリカ村で小さな喫茶店を営んでおりました、年に2〜3回バイトのおねーちゃんに店を任せて
ファッション雑誌anan頼りにサウナ泊まりで東京の雑貨屋さんや面白いスポットを巡ってガラクタやアンティークな時計やポスターなどを買い集めるのが楽しみでした
大阪には僕の願望を満たすアンティークショップは少なく、やはり東京の表参道・代官山・下北沢等は憧れの街でした、

 今は無き渋谷のアメリカ雑貨オキドキや青山のアールデコの店パリススキャンダルにはこんな店したいなぁ思いながら(もちろんようせんけどな)よく通ったものです
少し以前にL疑惑のM浦さんの新店渋谷のフルハムモードまで行き握手してもらった事もあったな、あん時の良枝さんは素敵やった・・おっ話し脱線

 そしていろんな買ったもの、それらを喫茶店に飾ったりまた飽きていらなくなったものをナンバシティーの屋上駐車場(今はスイスホテルが建ってる)で開催されていた
フリーマーケットに相棒と出店し、いろいろな変な人?と出会ったり(現在のおもちゃ仲間はたいがいそこで出会った貴重な人たちです・・と念を押す)
たまに迷い込んで来るべっぴんさんと喋ったり? まぁこんな些細な事に生きがいを感じ僕にとっては見るモノ出会う人全てが新鮮で楽しい青春時代やったんです、

 また当時の大阪の難波プランタンデパート(現ビックカメラ)にサリーさんというとてもセンスのよいレトロ雑貨屋&カフェがありまして
そこの素敵な経営者ご夫妻にあこがれ面白いモノ集めの目標にしたものです・・

 同じ頃、大阪の夜の街、北新地の古ビル4階に足の踏み場もない程スペースいっぱい映画のポスターを満載売っている店があって
「映○堂」という名でやけに声の太いデカイお姉さんがお店を経営していました
全国の映画館をハンティングしてポスターを集めたという猛者です、この人根性あるな思ってました
しかもメチャメチャ詳しい映画ポスターのプロフェッショナル!(怪獣映画の地方版の相違点とかポスターのこと諸々よく教わりました)
昔のハリウッド映画が好きな事もあって店の売り上げ持ってよくそんなバカ高いポスターを買いに行ったものです、
 
 そして後日談、喫茶店の近くに古書の組合がありまして、ある日古書市のたつ日に来られる常連さんに「マスターあの人男やでっ、のど仏あったやろって」
教えられ、え〜!と、こんなサプライズもあったりで(笑)
当時は実にのんびりした世間であったしなんでも古いものに興味を持っていろんな風に楽しみ、なにやら夢と希望に満ちた平和な日々を過ごしていたな〜

 (あっ、ちょっと話しがそれたね〜全ての間違いっ!いや人生の寄り道の始まりはそのイベントです)

 とあるブースの店主と客とおぼしき若者がなにやら商談中、酒のせいか赤い顔した店主がえらい愛想なくゼンマイを巻く〜
古そうなセルロイドの人物の頭のてっぺんになぜか船?なんで船なん? よーわからんがフラフラ船が回転する様子 
けったいなオモチャや! 戦前か? しかも汚いやん、買うんか? 無言で突っ込む僕・・遠巻きに興味深々
えっ?商談成立!おもむろにカバンからお金を出して一枚ずつ数え始める チラチラと流し目で一緒に数える えーじゅうさんまん!
うわーアホや なんでそんな高いん しかもこの人若いし、ナンデナンデ? 

 ほんで次のブース 店主とある年配のお客さんの会話が勝手に耳に飛び込んできました・・ってかこっちも気になるもんで聞き耳立ててたんやけどな
マルサンのキャデラックなんて以前50万位で買っちゃてるから大変よっ、もういろいろなものでガレージ一杯になっちゃって! 
どうしようか置き場所に困ってはる様子・・すっ凄すぎる、こんなコレクターもいてはるんやね
普段の生活だけやったらこんな会話聞く機会ないよホンマ・・まぁ別に聞きたくはないか、

 (ここはいったい何処 なんかえらいミステリースポットに迷い込んでしまったのね僕は・・)

 そうや人の事見てボーとしてる場合やないわ、さっき「鉄人28号」のブリキでデッカイの目がおおたんや、あれええもんやなぁ
(あれ通称2号って言うんよね)たしか12万やったか〜ウ〜ン
おもちゃがね連れて帰って店の棚に並べろってね訴えとる うんよしよしさっそく交渉してみよ、その前にポケットのお札確認 (サイフ持った事ないもんで)
オッケイ旅費とホテル代ともろもろで16万ある、グーッやなんせ大阪から新横浜で途中下車してさっき来たとこやからまだ全然お金使っとらんしな
こんなんはじめからあってないような値段やから、まぁ僕の交渉術をもってしたら半値の6万からの買い上りやねって感じで(8万以下やったら即買う、よ〜し決めた)
「あの〜この鉄人なんぼになります?」 「あっ今店の人いないんでまたあとで来て下さい」と若い店員さん
「あっそう」 「なんや愛想ないな」 「あんた店の人ちゃうんか」とひとり突っ込みを入れる僕、  
 
 また会場ウロウロ〜超合金のキングギドラも気になるし、こんなんで2万円もしよるんか
なんか気になるもんようけあるんやけどなー思いながらもう一度先のブースヘ、なるほどこの店が有名なビリケン商事か・・(店主戻る)
「あっ、このお兄さんが鉄人いくらになりますか?って」  僕:6万くらいにならんですか? 
長身でなぜかカバンをたすきがけのヒゲの店主、鉄人をひっくり返して足の裏の値段確認していわく
「12万だろっ安いじゃんそんなの半値なんかなるわけないじゃん!」 そんで一貫の終わり・・せめてじゃあ10万でどうよ、そこをなんとか8万位でいうシナリオやったのに
東京の人は商売っけないね、そのままどっか行っちゃった!あ〜そう商売より自分の買いもんに忙しいのね〜まったくとりつく島がない(泣)
 
 なんやこの世界は?いったいここはなんや いやモーレツに腹立って来た! 値段聞くために長いこと待ってたのにそんなん関係ないんや
う〜んでも欲しかったなぁ、逃がした魚はデカい、清水の舞台から飛び降りたつもりで8万円覚悟したのに、残念!

(今思うとその昔からもうすでにレトロなおもちゃにはけっこうなプレミアがついていたのね、今の相場と変わらんやん)

 クソー結局なんにも買えんかった・・ハランタツ・・ほんでこのイベント今度いつあんねん〜 ウオ〜

大阪トーイショウ主宰    萩の屋
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